セックス依存症。のはなし。
「ねぇ、私のこと好き?」
「うん。」
「じゃあセックスしよう。」
僕は何も言わない。何も言えない。
彼女は相変わらず綺麗で儚くて可愛くて、危うい。
「ねえ、セックス。セックスしようよ、ね?」
いつからか君はそれに依存し始めたね。
僕はまだ口を開かない。石のように押し黙ったままただベッドの縁へ腰をかけている。
「なんで。してよ、セックス。私のことほんとに好きならセックスしてよ。」
僕が沈黙を保っていると、とうとう彼女は怒りながら泣き出す。
「うん。…ごめん。」
彼女の肩に手をかけて、少しでも優しくしたい思いで額から口付けていく。
「ん、あは、焦れったいよ。」
すると彼女はだらしなく淫靡に笑う。
悔しいのは、そんな風に笑ってみせても、やはり彼女が美しいということ。
彼女の望み通り、僕は彼女と繋がった。
「ん…もっと。」
華奢な身体がベッドと一緒に軋む。
「まだ、ねぇもっと。」
彼女は多分、酷くして欲しいんだろう。
こんなのはただの欲の貪り合いだ。虚しい。…悲しい。
これが愛を確かめ合う行為だというのなら、僕はどうしたら良かったのだろう。
だって、でも、僕好きなんだ彼女が、どうしようもなく。
「………ねぇ、来週の土曜日空いてるかな」
「え、空いてるけど、どうして?」
セックス後特有の倦怠感に身を包まれてベッドの中で微かに寝返りを打つ。
「うん、海でも見に行こうよ。」
せめて、せめて。たった一つでもいいから綺麗なだけの思い出が欲しい。
1回だけでいいんだ。そしたら僕はそれを宝物にして、君を好きでいられる。
君をちゃんと、愛しているんだって僕は僕自身に言ってあげられる。
「あはは、海?うん、いーよ」
「えっ、ほんと、」
「あ、待って、電話。もしもし……、あ、タクミ?うん…、うん。…えー!?行く行く!来週の土曜日?空いてる空いてるー!」
「…………。」
「うん、また連絡するねー。はーい。バイバイ。」
「……あ、の」
「ごめん、来週の土曜日セックスしてくるから行けないや。ふふっ。」
そうして彼女は、また花みたいに笑った。