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帰り道は夜の匂いがする。
寂しいような、優しいような、静かな匂いがする。
星の声がぱちぱちひそひそ聞こえてくる。
きらきらと冷たい空気が肺を満たす。
私はちょっと立ち止まって空を見上げる。
この世の全ての疑問に首を傾げてみたりする。
その内思考を投げ出すと、また一歩また一歩と進んで行く。
道は果てしなく永遠に続くように思う。
でも、それは安っぽいセンチメンタルの演出で、私はすぐに人工的な明かりの元へたどり着いてしまって興醒めする。
私は人間なんだ。
何にでもなれる気がしていたのに。
お姫様でも蝶々でも戦士でも人魚姫でも、なんにでもなれる気がしていたのに。
今、暗い道を歩く私は私という人間なんだ。
帰り道は夜の匂いがする。
ひとりぼっちのよるの匂いがする。