文字の海。言葉の星。

▽ しゃかい の ごみ

送信ボタン。

『あんたなんか大嫌い。うざい。死ね。』

手慣れたフリック入力で携帯の画面に文字を打つ。

負の感情を表現した文字の羅列が真っ暗な部屋に浮かび上がってくる。
もう3時かぁ。
ぼんやりそんなことを考えながら無機質な手の平サイズの温もりをカイロ代わりにしてひたすら単語を連ねてる私。

今時ラインじゃなくてメールってちょっと遅れてるかなって思うけど、偶にはいいと思う。

だけど一つだけ問題がある。
送信ボタンが押せない。

文章はとっくの昔に出来上っていて、といってもひたすら嫌いとか死ねとかそういった内容なんだけど、送信ボタンが押せない。

指が送信ボタンを押すことを拒否して、何回文章を作りなおしてもそれは未送信ボックスにたまっていく。

どうしてだろう。私は嘘つくの嫌いだから大嫌いなやつに大嫌いって言いたいだけなのに。

あぁ、そうだ。逆転の発想だ、こういう時は。

敢えてこういう文章を作ってみたらどうだろう。

『大好き。世界で一番愛してる。生きてて欲しい。』っと。

するとどうだろう。びっくりするくらいすんなりと私の指は送信ボタンを押していた。
あれ。おかしいな。私は嘘つくの嫌いなのに。

瞬間。ピロリロリロリン。新着メールの知らせ。
受信ボックスを開いてみると私からのメールが届いていた。

『大好き。世界で一番愛してる。生きてて欲しい。』

そっか、そうだったんだ。
私が送信ボタンを押せない理由。
私は私が好きだったんだ。私は私を愛してあげたかったんだ。私なんか死んでしまえと思ってる私はいなかったんだ。そっか、うん。そっかぁ。

なんだか笑えてきてしまって泣きながら笑って、私は未送信ボックスに溜まった呪いの言葉たちを削除してメールボックスを閉じた。