文字の海。言葉の星。

▽ しゃかい の ごみ

深海ロンリネンス2。

寂しい人魚の王子様は地上へ出る決心をします。

翡翠の鱗をきらきらと輝かせて少しずつ上へ上へと登ってゆきました。

初めて見上げた空は夜でした。
美しい貝殻や珊瑚に負けないくらい光るヒトデが空には沢山いたので王子様はとてもびっくりしました。

そうして恐る恐る何度か地上に顔を出すうちに王子様は一人の人間の女の子と出会いました。
そこで王子様は初めて恋を知るのです。

王子様は海に遊びにおいでと言いました。

女の子は恥ずかしそうに笑うとこくんと頷きました。

艷やかな長い髪の毛とぱっちりした瞳は王子様が初めて見たよるの空みたいに真っ黒で、とても可愛い女の子でした。

王子様は早速女の子の手を取ると海へ引きずり込みました。
そうして深く深く、長い時間をかけて自分の一番好きな場所へ連れていってあげました。
海の中へ潜ると女の子は何も喋らなくなってしまいました。変わりに泡が沢山喋っていましたが、王子様は気にも留めませんでした。
きっと人間は海の中では泡で会話をするのだと思ったのでしょうか。

沢山の真珠を薄く、太陽の光が透き通るほど薄く伸ばして作られた洞窟に着く頃、女の子は死んでいました。

真っ白な洞窟は地上から降り注ぐ微かな光を受けて虹色に光って綺麗でしたが女の子は何も喋りませんでした。

王子様は泣きました。

何日も何日も泣きました。

女の子の身体は蝋のように青白くなって、皮膚は水を吸い、腐敗して少しずつ海へ溶けてゆきます。

泣いていた王子様は、海中で揺れながら洞窟から反射する星の光を受けて輝く腐ってゆく死体を美しいと思ってしまいました。

髪は抜け落ち、あの美しい黒い瞳もすっかり溶け出して目はブラックホールみたいになったそれを王子様はずっと抱き締めていました。

女の子が完全に骨だけになってしまった時、王子様は安堵と幸福に包まれました。
海はもう彼にとっては、あの愛しい彼女そのものでした。

それから王子様は愛した人を海へ引きずり込むようになりました。
真珠の洞窟は死体で一杯になりましたが、3ヶ月もすると何もかも塩水に晒されて溶けて骨だけになってしまうので大したことではありませんでした。

沢山の女の子が海に溶けました。

王子様はひとりぼっちではなくなりました。

めでたしめでたし。

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もうちょっと膨らませて原稿に起こしたいなーと思っております