文字の海。言葉の星。

▽ しゃかい の ごみ

深海ロンリネンス。

海に沢山人魚がいたのはもう昔のお話です。

人魚は1匹につき1匹しか赤ちゃんを産めません。そして出産を終えた女の人魚はすぐに死んでしまいます。

ある年、全く女の子の人魚が生まれなくなりました。王様の人魚は日に日に焦り、何人もの奥さんに子供を生ませましたが、やはり全て男の子でした。
もともと人魚は希少種で多くは存在していません。
新しい命が誕生するたびに王様は絶望し、生まれてくる男の子たちを次々に殺してしまいました。

そしてとうとう女の人魚は、王様が一番大事にして愛していたお妾さんだけになりました。

王様の世界で一番愛していた人の命と引き換えに生まれた子は、これもまた男の子でした。

もう種の繁栄は望めません。しかし、愛しい人の忘れ形見ですので、王様はこの子だけは殺せませんでした。
王様は静かにお妾さんの亡骸を抱えると海の中の深い深い場所で自らの心臓を巻き貝の鋭い先端で貫いて息絶えました。

小さな赤ん坊の人魚の王子様は、海でたった1人になりました。

そのうちにちっちゃな王子様は成長し、美しい青年になりました。
さらさらと波に揺られる金糸のような髪の毛は毛先だけがカールしています。目は深海を映した深い青色でしたし、力強く水を掻き分ける魚の尻尾はエメラルド色に光っていました。

王子様は海の底の白くて柔らかい砂に寝そべりながら海の上の世界の想像に耽ることがなにより好きでした。
ひどく孤独だったからです。

そしてふと彼は思いました。

そうだ、誰かをここに招待しよう。と。

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続きます。