文字の海。言葉の星。

▽ しゃかい の ごみ

タイトル未定の物語1

夜のニュースから流れてくる情報によるとクラゲの飽海期もそろそろピークだそうだ。
今夜は海に飽きたクラゲたちがより一層空を泳ぐらしい。

僕は怒号まみれの家をひっそりと飛び出してこの街で一番高い丘に行く。
そう、この辺りで一番月に近い場所だ。

一冊のノートと一本の鉛筆。火照って息の上がった体に吹き抜ける風と草の匂いが心地良い。

僕の夢は詩を書くこと。美しい言葉に囲まれて生きていきたいんだ。

僕に膨大な期待を背負わせる母親も
何かと感情任せに怒鳴り散らす父親も
僕の美しい世界にはいらない。

波の中をゆらゆらと泳いでいた無数のクラゲたちは泳ぎ飽きてしまって、海の中と同じように星まみれの空を悠々と漂っている。
クラゲが海に飽きたのは確か、人類が空飛ぶ車をようやく完成させた頃だったらしい。

そしてその中心に彼は居る。
夜の王たる彼はゆったりと闇の王座に君臨し今夜もただ静かに僕を見下ろしている。
透明で銀色の光が僕を隠してくれるように感じる。
1つのフレーズというものはある瞬間に突然、神に遣わされたように頭の中へ降りてくるものである。
こんな風に綺麗な真夜中には特に筆が進む。

風は相変わらず吹いている。

さっきまでの火照りも僕の身体から剥がれ落ちてきて、ほんの少しの肌寒さに身震いした。

と、その時だ。

微かに人の気配を感じた。
気配といってもそれはほんとにか細くて、死んでいるのか生きているのか、それが人なのかどうかすらも分からないようなものだった。

僕の右隣に天使が立っていた。

真っ白、というよりは銀色に近い腰までの髪の毛をさらさらとなびかせて。
陶器を思わせるぞっとするほど白い肌を包んでいる純白のワンピースはサイズが大きいのか、細くて折れてしまいそうな体軀をより一層華奢に見せていた。

夜闇の中で月の光を浴びながらクラゲたちをぼんやりと見つめる彼女の目は血のように赤く、僕はただその美しさに貼り付けられたみたいに身動きもできずに彼女を見つめることしかできなかった。