文字の海。言葉の星。

▽ しゃかい の ごみ

清算。

伸びた前髪を眉上まで切った。

暗くて重い帳が目隠しをして視界が前が黒くぼやけてしまう前に。

人生の一瞬を清算したくなった時に私は前髪を切る。

結構な意気込みで臨んだ面接の手応えを感じなかった時とか、大好きな彼と大喧嘩した後の、あのもやもやした気持ちを上手く消化できないときとか。

3年付き合った彼氏と別れました!とか
第一志望校に落ちました!とか
そういう酷い絶望感に蝕まれる時じゃなくて、心の隅に墨汁を垂らしたような黒っぽい染みが出来た時。

そんな時に
鈍く光る鋏で少しずつ前髪を削ぎ落としていく。

花びらみたいにはらはらと床に落ちて行く髪の毛は私の一瞬を知っている。
乱雑に散らばったそれは短く切り離された私の人生そのものなのだ。

そこからまた1つ区切りをつけて私のほんの少しばかり新しい一瞬が始まっていくのだ。

私の前髪を切っている彼女も前髪を切ることはもちろんあると思う。

彼女はどんな時に前髪を切るのだろうか。

私のように清算的な効果を求めるような状況になった時だろうか。
反対に元担ぎのように何か良いことがあるときに切るのだろうか。
あるいは、ただ事務的に野暮ったいからという理由だけで、重荷を捨てるみたいに人生を捨ててゆくのだろうか。