はいぱーめんどくさい。の話。
あいあむごーすと。の話。
私が私であることが怖い。
他人の目が怖い。
評価されないことが怖い。
承認してもらえないことが怖い。
他人から捨てられるのが怖い。
他人から裏切られるのが怖い。
他人から嫌われるのが怖い。
だから他人に近付かれるのが怖い。
誰にも置いて行かれたくないのに誰にも傍にいて欲しくない。
他人から愛される私である為に、他人から目を向けてもらえる私である為に、私はどういう私でいればいい?
今ここにいる私は一体何者なんだろう。
本当の私はきっと当の昔に死んでいて、心の死骸は他人に、環境に、承認欲求に、ズタズタに引き裂かれて何も残らなかった。
今いる私は空っぽの幽霊。
モラル崩壊ちゃん。の話。
わたしのなまえはモラル崩壊ちゃん。
自称自傷ガール。なんちゃって。
手首は切るし、髪も引っ張るし、よく分かんないけどそこに錠剤があればごくごく飲むよ。
死にたいわけじゃないんだけどね。
痛みって分かりやすい輪郭だもの。
精神安定させたい時も、ストレス発散させたい時も、自己満足な贖罪に縋りたい時も、手っ取り早く視覚から痛覚から訴えかけてくれる。
それが安心するの。
ねぇ、頭おかしいって思った?
なんで?なんで手首切っちゃいけないの?
自分で自分を傷付けることの何がいけないっていうの?
他人や物に当たるよりよっぽどエコロジィじゃない。
自分で自分を傷付けちゃダメなら、人から傷付けられるのならいい?
手首切るフレンド作ればいい?
セックスフレンドが世の中に存在するくらいなんだもん。
あってもおかしくないよね。
寂しさを身体で埋めるように、私たちは自己満足の押し付け合いをしよう。
傷を舐めあったりするのもいいかもね。
他人の柔らかい舌が私の一番醜い場所に触れるわけでしょ?
うん、いいかも。ゾクゾクする。
大勢多数の一般倫理くんから見ると私は相当変かもね。
それでも構わないの。
私が私であることを保っておくために必要なことだからさ。
モラルなんて窮屈なこと誰が決めたんだろう。
私はモラル崩壊ちゃん。
しっしっしっ。の遊び。
紙の誌を視んで
史の詩を志して
私を知って四肢を紫に染んで死んで。
可愛い手首。のはなし。
みんな死ね。の話。
みんな死ね。
私を傷付ける人はみんな死ね。
私が傷付いてきた27倍くらい苦しんで死ね。
私がどういう思いで生きてきたと思う。
私の心が端から腐敗してその輪郭を作り、壊していくのを、私は嘲るフリをして痛い痛いしてたんだよ。
お前らはそれを!それを!!それを!!!
なんとも思わずに、あるいはその辺に咲いた名前も知らない花にするように、気付いてすらいなかったんだろ。
存在を認めることすらしようとしなかったんだろ。
死ね。みんな死んでしまえ。
虫けらみたいに。
死ね。私の目の前で死んでしまえ。
そうしたら私は報われる?
わからない。でも死ね。
それか、私が。
わたしが死ねばいいんだ。
みんなが死ぬのも私が死ぬのも変わらない。
じゃあ死んでやるよ。それがお前らの望んでいたことなんだろ?
それならせめてわたしをころせ。
ポップでキュートな彼女たちの恋愛事情②
「ねぇしーちゃん、あたしの手首切って」
目の前にカッターナイフが突き付けられる。
河本凪子、もといめろ子はいつものようにニコニコしている。
あ、でもこれ違う。目が虚ろだ。いつものめろ子じゃない。
私達は恋人だ。
最愛の恋人。
愛情不足な彼女を私が心の底から愛してやる代わりに、いつか彼女が私を殺してくれる。
そういう“契約”。
何か変なことでもある?
だって“恋人”って“契約”関係でしょ?
私達は何もおかしなことなんてしてないわ。
少し歪なだけよ。
「しーちゃん、早く切ってよ、あたしの手首。ほら、ここのとこ、ね。なるべく深くね、早く、ほら。」
めろ子は刃が収まった状態のカッターの持ち手部分を私の胸元にぐいぐいと押し付けて迫ってくる。
彼女の瞳はまだ鈍い。
「クラスの奴らがね、自分で手首切るの異常だって言うの。違うのに違うのに、あたしは異常なんかじゃないのに。自分で自分を傷付けるなんて頭おかしいって、皆がそう言うの。皆があたしを仲間外れにするの。」
「めろ子、」
「人から傷付けられるなら異常じゃないよね?そうだよね?あたしは異常じゃないよね?ちゃんとできてるよね?」
この子は時々、死にたがりの私より死にたがりで危うい。
「だからしーちゃん、私の手首早く切ってよ」
あぁ、ダメよめろ子、自分でそんな髪の毛引っ張っちゃあ。
あんたのピンクの髪の毛、私の重たい黒髪と違って綺麗なんだから。
泣きじゃくる恋人がひどく幼く見える。
暫くぼんやりと彼女に見惚れていると、不意に彼女が両の手の平からぬるりとした視線をこちらに向けた。
そしてぴたりと泣き止むと、今度は私の腕を物凄い力で掴みあげる。
「知ってる。しぃちゃんには切れない。あたしのこと好きじゃないから。自分の為に、あたしを傷付けたくないんだよね。他人の傷なんて負えないんだよね。なんでなんでなんでなんで私はこんなに好きなのに!私はお前の傷なら背負えるのに!!こんな風にさぁ!!!ほらぁ」
瞬間、鋭い痛みが私の手首に走る。
カッターの刃が眼前の空を切る。
ぱっくりと口を開けた手首は思い出したみたいにだらだらと赤い涎を垂れ流す。
「あ、あぁあ、あ!血、血が…ごめんしぃちゃん、ごめんね、ごめんなさい。あぁ、こんなに血が…やだやだ死なないで、違うのこんなことしたかったんじゃないの、しぃちゃんしぃちゃん」
さっきの乾いた表情がみるみる崩れて、別人みたいにめろ子は取り乱す。
あぁ、そっか、この子は
「愛しているわ、めろ子。」
「……………あ、…ぁ…
あぁあ゛ああぁ゛あああうわぁあぁああ!!!」
ただ愛されたいんだ。
何かを傷付けたい訳でも、自分が傷付きたい訳でもなくて、ただ愛されたいだけなんだ。
絶叫が収まり、しゃくり上げる彼女の頭を胸元に抱き込んでやるとめろ子は少し落ち着いたみたいだ。
「…しぃちゃんごめんね。」
出血はまだ止まらない。
思ったよりも深いこの傷は、きっと一生残る傷跡になるだろう。
「いいわ、別に。失血死も悪くないもの。」
「うん。ごめんね、しぃちゃん。愛してる。」
「私もよ。」
愛しい愛しい恋人。
だから早くあたしを殺して。